上海万博の前途多難…噴出する盗作問題

今月、中国の威信をかけた世界的イベント・上海万博(=世博/ shìbó)が開幕しました。日本でも近頃になってにわかに関連報道が増えており、やっと注目が高まっています。しかし残念なことに、その関心の源は次々と噴出する「盗作問題」も一端を担っています。日本人アーティストにも及んでしまった一連の“パクリ事件”ですが、今回は中国語の報道からその表現をご紹介します。

台湾人デザイナーの作品によるという万博のマスコット「海宝(ハイバオ)」くんが、アメリカ50年代のクレイアニメのキャラクター「ガンビー」にそっくりと指摘されました。マスコットは中国語で「吉祥物(jíxiáng wù)」と言います。直訳すると「ラッキーグッズ」というような意味でしょうか。

また、人気の中国パビリオンも、92年セビリア万博の日本パビリオンと類似点が言われています。中国パビリオンはそのまま「中国馆(zhōngguó guǎn)」です。なお、人気パビリオンは「热门场馆(rèmén chǎngguǎn)」です。

日本で最も大きな話題となったのは「主题曲(zhǔtí qǔ /テーマ曲)」の問題でしょう。こちらは有名作曲家による「2010等你来(èrlíngyīlíng děng nǐ lái/2010年はあなたを待っている)」という楽曲が、97年の岡本真夜さんの「そのままの君でいて」に酷似していると騒ぎになりました。

以上、「AがBの盗作だとされる」という報道の定型句は、「A被指抄袭B(A bèi zhǐ chāoxí B /AはBの盗作と指摘される)」「A涉嫌抄袭B遭质疑(A shèxián chāoxí B zāo zhìyí /AはBの盗作であるとの疑いで物議を呼んでいる)」のようなものがあります。「抄袭」が「盗作」にあたる単語です。

また、こうした報道で頻出する語彙は「知识产权(zhīshíchǎnquán /知的財産権)」「版权(bǎnquán /著作権)」です。よく目にする単語ですが、国民の意識に浸透するのはまだまだ時間がかかりそうです。

では、関連の報道から少しわかりやすく書き換えた例文をご紹介します。

Guānyú shìbó chāoxí mén wèntí, jìngwài rénshì hé méitǐ dōu shì xiāngdāng guānzhù de. Dànshì, dāngshìrén men dōu yǒu shuōfǎ.
上海万博の一連の盗作問題について、海外の人々やメディアは相当に注目している。しかし当事者たちにはそれぞれの言い分があるようだ。
※「关于××问题」は「××の問題について」。「抄袭门」というのは第20回のコラムでご紹介した通り、世間の関心を集める事件に関する一連の報道を「○○门」とくくる、今はやりの表現方法です。日本語にすれば単純に「盗作事件」としか訳しようがありませんが…。「境外」というのは「国境の外」、つまり海外を指す言い方です。「人士」というのは「人」を指すのですが、多くの場合はひとかどの人物、たとえばある程度社会的な地位があるとか、何らかの分野において優れているといった人物を指します。「媒体」はそのまま、メディアのことです。「关注」は「関心・注意を払う」。「当事人」は日本語と同じ、「当事者」です。「说法」というのはこの場合、「言い分」という意味です。つまり、「当事人们=複数の当事者たち」が「都=皆それぞれに」「有说法=言い分を持っている」ということです。

Shànghǎi shìbó shìwù xiétiáo jú xiàng Rìběn gēshǒu Gāngběn Zhēnyè tíchū shēnqǐng, xīwàng jiāng tā de gēqǔ yòngzuò shìbóhuì de xuānchuán qǔ. Zhè yìwèi zhe shìbó zhǔbàn fāng shìshí shàng chéngrèn 《èrlíngyīlíng děng nǐ lái》 xì chāoxí.
上海万博事務協調局は日本の歌手・岡本真夜さんに申し出を行い、彼女の楽曲を万博のPR曲として採用したいとした。これは、万博の主催者側が事実上「2010等你来」を盗作と認めたことになる。
※「向+目的語+提出」で「誰かに対して、何かを持ち出す・提案する」。その申し出の内容は、「将+A+用作+B=AをBとして用いる」です。「这意味着~」は「~を意味する」。「主办方」の「主办」は主催するという意味。「~方」というのは「~側、~サイド」に当たります。「事实上」は「事実上」。「实际上(shíjì shàng /実際には)」などとともによく使います。

Rìqián chuánchū shìbó tuīguǎng qǔ chāoxí Rìběn míngqǔ, jìnlái yǐnfā Zhōngguó wǎngyǒu fènnù, pǔbiàn dōu jièdìng wéi guóchǐ. Wǎngluò shàng fāyán rènao gǔngǔn, tīng guò zhèliǎngshǒu gē de wǎngyǒu dàduō biǎoshì, liǎngzhě xiāngsìdù gāodá jiǔ chéng yǐshàng.
先日、上海万博のPR曲が日本の有名曲の盗作だと報じられ、このところ中国のネットユーザーの怒りを招いており、広く国辱だと認識されている。ネット上で書き込みが飛び交っているが、この2曲を聴き比べたほとんどのネットユーザーが、両者は「9割以上そっくりだ」としている。
※「目前」「近来」はそれぞれ「先日」「最近」という意味です。「传出」は「伝えられる」ということですが、この「動詞+出」という表現は文字通り、「表面に目に見えるかたちで現れる」という方向性を示します。ここでは「世間という外の世界にニュースが放たれる」というニュアンスです。「引发」は「引き起こす、誘発する」という意味です。「网友」の「网」はインターネットを指します。日本語にすると、ちょうど「ネット」という略語にあたります。「网友」はネットの友、つまりネット利用者のことで、「网民(wǎngmín)」とも呼ばれます。「普遍」は「全体に、あまねく」という意味ですので、「それらをひっくるめてすべて」というニュアンスをもって、その後に「都」がつきます。これは中国語表現の習慣的なものです。「界定」は直訳すると「境界線を定める」といった意味ですが、つまり「定義する」「認定する」といった表現です。「热闹滚滚」の「热闹」は「にぎやかな」という意味ですが、後ろの「滚滚」というのは、グラグラと湧き立つお湯のようなイメージです。激しく流動するさまを表現します。「大多」は「ほとんど、大多数が」、「表示」は日本語とは違い「意見や気持ちを表現する」という意味です。「相似度」の「相似」は「互いに似る」という意味、「××度」は日本語以上にさまざまな場合で形容詞とつなげて名詞化することができます。「真实度(zhēnshí dù/信ぴょう性の度合い)」「亲密度(qīnmì dù/親しさの度合い)」など。「9成」の「成」は日本語では「割」という単位になります。「1成」=「1割」です。

愛玉先生の中国語ネイティブ化計画(無料中国語講座コラム)一覧

すべての発音が収録されています。我是日本人

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  2. 第2回最難関!そり舌音(zhi・chi・shi・ri)の攻略法 
  3. 第3回中国でも感染広がる「新型インフルエンザ」 
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  5. 第5回ニセモノ商品に気をつけろ! 
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  14. 第14回フルネームで呼び捨て!?中国人の名前の呼び方 
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  17. 第17回実は日本語がいっぱいの現代中国語、そのわけは?-その2- 
  18. 第18回「もうすぐだから!」時間の概念を変えよう 
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  20. 第20回スキャンダラス事件につけられるタイトル「○○門」 
  21. 第21回歌うような中国語はナチュラルじゃない―その1― 
  22. 第22回歌うような中国語はナチュラルじゃない―その2― 
  23. 第23回「安くして!」だけが能じゃない、効果的な値切り方 
  24. 第24回日本より旺盛?ネット発の社会現象―その1― 
  25. 第25回日本より旺盛?ネット発の社会現象―その2― 
  26. 第26回「わたしはこう思う」自分の意見を述べる 
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  28. 第28回「スゴイ!」驚きを表現するライブ感たっぷりのスラング 
  29. 第29回性格を表現する言い回しあれこれ―その1― 
  30. 第30回性格を表現する言い回しあれこれ―その2― 
  31. 第31回性格を表現する言い回しあれこれ―その3― 
  32. 第32回中国でも晩婚化が進んでいる 
  33. 第33回気になる人へのアプローチはじめの一歩 
  34. 第34回意外と違う!中国の中国語と台湾の中国語 
  35. 第35回旧正月直前!「新年おめでとう」の挨拶集 
  36. 第36回オフィスワークで必須のパソコン用語―その1― 
  37. 第37回オフィスワークで必須のパソコン用語―その2― 
  38. 第38回お誘いを遠回しに断る 
  39. 第39回旬のニュースに学ぶ裁判用語 
  40. 第40回季節の変わり目、体調不良の時は―その1― 
  41. 第41回季節の変わり目、体調不良の時は―その2― 
  42. 第42回一人っ子政策の申し子「80後(パーリンホウ)」 
  43. 第43回「清明節」国民的行事にも地域差さまざま 
  44. 第44回新居の入居後はトラブルがいっぱい! 
  45. 第45回タクシーを乗りこなす 
  46. 第46回日本語と中国語で意味が違う!似て非なる単語集―その1・初級編― 
  47. 第47回日本語と中国語で意味が違う!似て非なる単語集―その2・上級編― 
  48. 第48回上海万博の前途多難…噴出する盗作問題 
  49. 第49回ビジネスにつかえるメールの定型文―その1― 
  50. 第50回ビジネスにつかえるメールの定型文―その2― 
  51. 第51回言葉を濁す―中国語の婉曲表現― 
  52. 第52回心のこもったお別れの言葉 

愛玉■中国語翻訳者、ライター。 重慶大学漢語進修課程で中国語を学ぶ。その後、上海で日本人向けフリーペーパーの編集、美容業界誌の中国語版立ち上げなどに携わる。中国在住経験は4年。現在、中国ニュースの翻訳や中国関連の執筆などを行う。得意分野は中国グルメ、中華芸能。北京語言大学主催のC.TEST(実用中国語レベル認定試験)Aレベル取得。
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