中国語の「ムード」を身につけることが上達の近道

中国へ駐在していたり、あるいは中国の取引先と仕事をしたりすることの多い方たちは、ビジネスの場で日本語堪能な中国人と接する機会も多いのではないでしょうか?日本人も舌を巻くほどの豊富な語彙を持ち、文法も「てにをは」も完璧に使いこなす優秀な人材も珍しくありません。しかしながら、彼らとのコミュニケーションにどこか齟齬(そご)が生じる、何故だか違和感を覚える……そんな経験をされた方も少なくないかと思います。

「ある言語をマスターする」ということは、ただ闇雲に単語を暗記し、正しい文法を身につける、それだけでは成しえないのだ―こういったことは容易に想像がつきます。その国の歴史や文化を学ぶことはもちろんなのですが、言葉の勉強をするにつれ、その国の人たちが何を大切にし、どういった思考回路を持っているのか、それを理解して順応する、こういったプロセスがないと、スムーズなコミュニケーションは図れないと筆者は思います。上記のような日本語堪能な人たちは、机上の学習においては並ならぬ努力をしたはずですが、おそらく「日本語のムード」を解する努力が少々足りなかったのではないでしょうか?

ふだん中国人と接する機会のある学習者の皆さんは、ぜひともこの「中国語のムード」を身につける、という試みを実行してみるとよいでしょう。自分の発言に対して相手がリアクションをとったとき、どんな声色だったか、どんな表情の変化があったか、どんな身振りをしたか…そういったことを確認したら、今後の会話でそれをどんどん模倣してみてください。物真似レベルでよいのです。それらを実行に移すうち、中国人がコミュニケーションの中でどんな心の動きをするのか、相手の心をつかむためにどんな発言や表現を心がけているのか、頭脳ではなく、身体が覚えこんでいきます。まさに「形から入れ」ということです。

たとえば、誰かに何か手間をかけてしまった時、中国人は「すいません」と言うのか、あるいは「ありがとう」と言うのか?誰かに褒められた時、「ありがとう」と言うのか、あるいは「そんなことはないですよ」と言うのか?こうした枝葉末節から、中国人の思考回路や価値観が学びとれるはずです。

言い回しだけではなく、ゼスチャーにも注目です。たとえば相手の話に深く同意する時、人はうなずくという動作をしますが、こんな点にも日中のお国柄の違いを見ます。日本人はあごをひいて頭をうなだれますが、中国人は逆にあごを持ち上げる動作をすることがあります。視線はこちらに合わせたままこのゼスチャーをすることが多いです。わたし達から見ると横柄な動作に見えますが、もしかして中国人の目から見たら、わたしたちのうなずき方は卑屈に見えるのかもしれません。(注:中国にも日本同様に「うなずく」動作は存在します)

試しに中国人のうなずき方を真似してみてください。「相手の意見に同調する」というよりも、「自分の意見に自信が出る」という気分のほうがムードとしてぴったりくるのではないでしょうか?こうしたディテールからネイティブらしさを学ぶことができる、ということを実感できるはずです。また、周囲の中国人受けも確実によくなってくるはずです。

「中国人になりきってみる」ゲームのような感覚で構いません。試してみる価値はあると思います。そして、日本人らしさや自分らしさも失わないまま、中国人と理解しあい、スムーズに交流できる日が来るとよいですね。

愛玉先生の中国語ネイティブ化計画(無料中国語講座コラム)一覧

すべての発音が収録されています。我是日本人

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  26. 第26回「わたしはこう思う」自分の意見を述べる 
  27. 第27回中国語の「ムード」を身につけることが上達の近道 
  28. 第28回「スゴイ!」驚きを表現するライブ感たっぷりのスラング 
  29. 第29回性格を表現する言い回しあれこれ―その1― 
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  31. 第31回性格を表現する言い回しあれこれ―その3― 
  32. 第32回中国でも晩婚化が進んでいる 
  33. 第33回気になる人へのアプローチはじめの一歩 
  34. 第34回意外と違う!中国の中国語と台湾の中国語 
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  38. 第38回お誘いを遠回しに断る 
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  40. 第40回季節の変わり目、体調不良の時は―その1― 
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  50. 第50回ビジネスにつかえるメールの定型文―その2― 
  51. 第51回言葉を濁す―中国語の婉曲表現― 
  52. 第52回心のこもったお別れの言葉 

愛玉■中国語翻訳者、ライター。 重慶大学漢語進修課程で中国語を学ぶ。その後、上海で日本人向けフリーペーパーの編集、美容業界誌の中国語版立ち上げなどに携わる。中国在住経験は4年。現在、中国ニュースの翻訳や中国関連の執筆などを行う。得意分野は中国グルメ、中華芸能。北京語言大学主催のC.TEST(実用中国語レベル認定試験)Aレベル取得。
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